目次

1-1.はじめに (著:穂積啓一郎)

ガラスと石英はどちらも化学技術にとって不可欠の材料で,ビーカーやフラスコ,反応器や蒸留装置,ルツボや燃焼管,光学材料や試薬瓶とあらゆる領域で使われています.化学技術に限らず,装飾品や生活材料としても古くから用いられ,古代遺跡からこれらの物品が多く発掘されています.石器時代にナイフややじりとして使われた黒曜石は天然のガラスで,割ると鋭いエッジになることを利用しました.人工的なガラスはどこで発明されたものかよく分かりませんが,粘土を焼いて素焼きのつぼや人形を作る高温技術が進むと,次に表面にうわぐすりをかけて水を透さないようにしたり,さらに色彩や図柄をつけて美しく見せるようにしたと思われます.うわぐすりはケイ酸質の粘土に植物の灰などアルカリ分を含ませたもので,素焼きの生地より融点が低く,このため割合低い温度で素焼きの表面をガラス状に覆いますが,このあたりからガラス製造の知識が生まれたのかも知れません.

近代のガラスは純白なケイ砂にソーダ灰を混ぜて1000℃以上に加熱融解したものですが,冷却すると無色の塊になります.板状に広げたものは窓枠にはめて光を室内に入れるのに役立ちました.風雨に曝されても室内に光を存分に取り入れられるガラス窓の普及は,画期的な生活向上であったに違いありません.さらに銅,鉛,マンガン,クロムなどの金属を加えるとそれぞれ独特の色を出すので,ステンドグラスの材料に珍重されました.ガラスの材料は自然界に豊富にあるので,量産も容易に進んだと思われます1).

一方石英は天然に水晶として得られるので,ガラスより古く発見され装身具として使われました.硬いので加工が難しかったと思われますが,その透明な輝きに魅せられて宝石の一種として扱われました.化学的には純粋な二酸化ケイ素ですが,軟化点が1650℃ときわめて高く,理化学方面では燃焼管の製作や高温の反応容器を作るのに向いています.以前はブラジルやマダガスカルに巨大結晶がとれたので,これを溶融して透明な石英材料を作っていましたが,近年は石英の微結晶の集合体である天然ケイ石を原料とし,これを高度に精製して溶融した高純度石英(通称,溶融石英)や,ケイ石を化学処理して液体の四塩化ケイ素を作り,これを原料として酸化または加水分解して二酸化ケイ素とし,人工的に超高純度の石英(通称,合成石英)を製造することなどが増えています2).

文化,生活,科学,工業とあらゆる面でガラスと石英はわれわれの身の回りで重要な役割を果たしています.分析化学もその例外ではありません.さまざまなガラス器具,計量器,燃焼管,吸収管,光学部品,ガラス電極から電子時計の発振子までガラスと石英がふんだんに使われています.日常ありふれた材料ですが,これほど恩恵を受けているのですから,そのルーツと種類,性質など一般的なことを知って置くことも無駄ではないでしょう.