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3-1.プラズマ化学反応の特徴 (著:穂積啓一郎)

加速電子の衝撃で起こる化学反応の最初のステップは分子軌道の切断です.原子が分子軌道を組んで安定化している所へ高速の電子が飛来してくるので,分子軌道がそのエネルギーを受けて励起し,光を放出すると共にその部分の原子間結合力が失われ,ラジカルとして遊離します.ラジカルは不安定な化学種ですから,放置すれば再結合して元の分子に戻りますが,継続して電子衝撃を加えればラジカルの生産とその再結合が平衡して,ある濃度のラジカルがプラズマ空間に存在することになります.プラズマ条件にもよりますが,ラジカル濃度は数%から十数%といわれます.

A2+e-*→A2+e →A+A+hν(e-*は高速電子)

電子の速度エネルギーは電場の強さと加速される距離に比例しますが,低圧になると電子の平均自由行程が長くなるので,同じ電場でも獲得する電子の速度エネルギーは著しく大きくなります.電界強度E(V/cm)と圧力P(Torr)の比E/Pはプラズマ条件の重要なパラメータで,Pが1以下では殆どが弾性衝突でラジカルの解離はありませんが,1~10あたりになると励起衝突が起こりラジカルが生成します.それ以上になると軌道電子も放出されプラズマ空間は陰陽粒子を含む電離状態になります.ただし電子エネルギーはボルツマン分布を持つので,放電空間には量的な違いはありますが低速,高速の電子が常に存在します.

酸素プラズマではラジカルである原子状酸素が生成し,多くの有機化合物は原子状水素と本体の有機ラジカルに解離します.

O2→O・+O・
CH3CH3→CH3CH2・+H・

ラジカルの表示法は決められたわけではありませんが,切断された不安定な結合手が残っているという意味の「・」を打つことが多いようです.切断された結合手が一本とは限らないので,特に有機化合物ではC―HのほかC―CやC―OHなどいろいろな結合部が切断され,ラジカル部位が何箇所もできます.「・」の数や位置にはあまりこだわりません.このため再結合のとき違う構成の物質となったり,場合によってはラジカル反応の繰り返しで重合反応が進んだりします.

酸素プラズマによる低温灰化では原子状酸素が有機物の水素を引き抜くか,またはC―C結合に割り込むことで始まります.

RH+O・→R・+OH・
R'R''+O・→R'・+R''O・

有機物表面のアルキルおよびカルボニルラジカルは引き続き分子状酸素および原子状酸素と反応し,

R・+O2 → ROO・
RO・+O・→ROO・

有機物の表面は次第に不安定な過酸化物に覆われて行きますが,これらの反応熱によって水,二酸化炭素,低分子の揮発性分子となって表面から発散して行きます.プラズマ空間に放出された低分子成分は容易に原子状酸素と反応し,材料表面で殆ど瞬間的に完全酸化されてしまいます.